「どうしたんだろう。ふたが開かないな・・・。」
「きっと、忘れてしまったんだよ。」
「いやー、もう飽きたんじゃないの?どちらにしても、どうにかしてほしい。」
こんな会話を、
床下収納庫の中でおみかんさんたち。
「まったくこの家の人たちは考えてない。
私たちを遠い九州から取り寄せ。
家族は3人でしょう?14キロは多いよね。」
「そうだよね!」
「初めは、”やっぱりおいしい”とか、”あまい”とか、
喜ぶようなこと言って毎日私達の出番があったけど、
今ではパタッと出番がなくなった。」
おみかんさんたちは、
どうにかして家の人に自分たちの存在を知らせなくてはと、努力した。
例えば、悪臭を出すこと。
「そうだね。せっかく選ばれてやってきた私たちだもの。」
「このまま老いてしまうのは、
あまりにもプライドがゆるさない。」
「ところで、だれかその”知らせ”をする役割を・・・。」
「体の大きいあなた。」
そして、
「じゃあ、いつもべたべたくっついてる君は。どう?」
「イヤぁ・・・ ちょっといやだな。」
そのとき・・・
「私はどうでしょう?」
シワでおおわれた、おみかんさん。
「ありがたいのですが、
そこまでシワが多くなると、匂いどころか、カビさんもつかない。
ですから匂いは期待できない。」
おみかんさんたちは、まわりでクスクス。
そのとき、
”プチっ“
となりにいた、まだ生き生きしたおみかん。
「なんだか体が無性に痒く、変です。」
”ぐじゅぐじゅ、ぐじゅぐじゅ”
「とうとう、私の出番でしょうか・・・
お役に立つ時がやってきました。
私がします。」
「やっぱり、見た目が若いといいね。勢いが。」
みんなは、
「おねがいしまーす!」
「おねがい!」
そのおみかんは、
みるみるうちに、
からだじゅう、グジャグジャ。
しかし、
匂いはみんなが期待したほど出ません。
おみかんさんたちは、ガッカリしてしまいました。
「・・・。」
「お役に立てなくて、ごめんなさい。
私の力不足です。残念。」
「いやがんばった。
収納庫の生活が長かったからしかたないよ。
匂いも、うすれてしまう。」
「ガッカリしないで、ごくろうさまでした。
ゆっくり休んでね。」
おみかんさんたちは、
「何かよい方法は・・・。」
すると、どこからともなくが声が。
「とうとう、私の出番が来たようで。」
「だれ? 今のだれ?」
「だれ? だれ?」
「ここですよ。
でも、みんなには今、見えてないでしょ。
”みかんジューススリー”を使うんです。」
「えー、使ったことない!」
「簡単です。からだの中心に気持ちを集中させて。
肝心なのは、届けたいひとの名前を叫んで、
”とどけー とどけー とどけー”と言い、心から願う。そして、“カチャッ“。完了。」
「ところで、“カチャッ”てなあに?」
「鍵をかけたの。“とどけ”がもれないように」
「そっか、わかった」
「ただ、水分が出てしまいますから、寿命は多少短くなります。
そして送られてきた人は、
ちょっと胸が”ズキン”としますが、
病気ではありません」
「あなたは、なぜそんなこわいことしたの?」
「それは、あなたたちと一緒で忘れられたのです。
でも、そちらのほうがずっとうらやましい。
仲間がいるからね。
わたしは ひとり。
さあ、私はだれでしょう。
私は、お供えの上にいます。」
「ああ~」
「ああ~ あ~!」
「ひどいものですよ。
最初はとりあえず、”代役”ということで、
そのうちに、枝と葉のついた若い子が来ることになっていました。
でも、忘れられたということですね・・・このまま。
忙しいから。
私がやってみますよ。
みなさんの願いを叶えます。
もうすぐ、鏡開き。
いやでも私のところに来ます、
家の人が。
その時です。私がんばります。
みんなが、 ”すごい、まだみずみずしい!” と言ってくれるように、なんとか。
私たちの威厳とプライドにかけて。」
「おねがい!」
「おねがい!!」
「がんばって!」
私たちもお供えさんだけに頼らず、
こうなったらみんなで念力で、
家のひとに私たちの存在を思い出させよう。
おみかんさんたちは、
「だれにとどける?」
「ママにしよう!」
「そうだね」
「よーし、いくよ!」
「大きな声で、叫ぶんだよ」
「マーマー!」
「とどけーとどけーとどけー」
“カチャッ”
完了。
努力の甲斐あって、見事に成功。
お供えさん ありがとう。
みかんジューススリー ありがとう。
ふたが開けられ、
「やったあ!」
”ああ、カビが出てしまった。
でも、思ったより傷んでない”と、
テーブルの上に。
「すごいね、このおみかん。
2か月近く床下にあったんでしょ?」
と、マミちゃん。
「あまいかな。」
と、ママ。
「こんなシワクチャなの、
食べても栄養になんないよ。」
と、パパ。
ママは、
「まだ食べられるので食べるわ。」
おみかんさんたちは、
その会話を聞いて、
いっきに老けてしまいました。
でも、テーブルの上にのせられ、
疲れ切った顔も、
どこか満足げです。
おわり
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