なんだか気分がとっても悪い。
一日中車に揺られ、車酔いです。私は金魚。それも三流の金魚です。
今日はどこの神社なのか、とても賑やかでちょっと楽しい気分になって来た。
「そこの浴衣の女の子!僕かわいいでしょ?おうちに連れてって!」
女の子はお母さんに、
「絶対すくってね、そこの目の出たかわいい金魚。」
お母さんは、
「わかったわ。」
いつもの会話です。
実に分かっていない。僕の価値を。そこらの金魚には絶対負けない。
お母さんは、
「よーし!やった!」
女の子は、
「お母さんやっぱり上手だね!」
お母さんはおじさんに、
「すくいましたよ。」
渡すとおじさんは、
「凄いね。へぇー!」と。
おじさんが、
「はいありがとう。」
するとお母さんと女の子は顔を見合わせて、
「おじさん、さっきすくった出目のかわいいの。」
おじさんは、
「あぁあげるのはこの金魚だよ。」
そこで出番は僕たち。三流金魚です。
ところが、そんな三流金魚から最近有名人が続々。
世の中わからないもの。
僕の親せきの話だけど、体に星があった。
すると、どこに行っても大人気。
その時はかわいい出目も顔負け。
この間の話だけど、金魚すくいの上手な人に捕まって。
ところがおじさんは、
「これはあげられないんだ。なかなかない特別な金魚だから。」
と、我々三流金魚にしてみれば、夢にまで見たおじさんのこの言葉。
とてもうれしかったそうだ。
また、その親戚から生まれたのがもっと人気者なんだ。
ハート模様。
それはそれは若い女の子達から大人気。
なんだかハートの金魚を大切に育てると、素敵な人に出会えるとか、
愛が実るとか、わからないものだね。
それにしても、僕は最近顔がかゆいような、なんだかムズムズする。
この間お客さんが、
「この金魚気持ち悪いね!」と。
なんだか悲しくなってしまう。
鏡でもあれば見れるのだけど。
この顔のむずがゆさは車酔いが酷く、
いつも顔をゆがめていたからだと思った。
挙句の果てには、三流仲間からも顔を合わせると、妙な顔をされる。
いよいよだと思い、覚悟も決め、
残りの命を精一杯生きようと思い始めた時、
なんとおじさんは池に僕を捨ててしまった。
最初は悲しく、あの賑やかな神社を思い出すと切なかった。
しかし、時が経つと、大きな池で伸び伸び。
なんといっても車酔いも無く、考えてみれば有り難く、
幸せな事だと思うようになった。
そんな日々から数カ月経った最近、
池の周りではザワついている。
なんだかテレビ局も来るし、
ともかく賑やかでこの池にも大スターがいるのかとその時は思った。
でも、いないね、星もハートも。
そうなんです。
その大スターはなんと僕だったんだ。
びっくりしたよ。
それがわかったのも、池の中に落ちていた小さな鏡があったから。
何か光っていると思い近づいてみると、びっくりしたよ。
一言に言って、変な顔。
でも、どこかで見たような。
そうなんだよ、人間の顔。
それも金魚すくいのおじさんの顔。驚いたよ。
いつもいつもおじさんに褒めてもらいたくて、
三流金魚ではなく、個性豊かなかわいい金魚だと思ってもらいたくて、
おじさんをずっと見ていたような気がする。
好きになると顔も似てくるもので、それでこの顔。
なんだかおかしくなって、パクパクしちゃうよ。
これからの残りの命、バラ色だね。
出来れば、元気なうちに一度おじさんに逢いたいよ。
おじさんに、
「僕、おじさんのこと大好きになったんだよ。
それでずっと見ていたら、おじさんに似た顔になってしまいました。」
と言ってみたいね。
喜んでくれるかなぁ。
いや、大笑いするね。
今日も池の周りでは、たくさんの人達が池を覗いている。
さあ、スイスイと泳いで、今日は特別、宙返りでもしてみよう。
おわり
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